むささび通信

映画/秋立ちぬ(成瀬巳喜男)

ずっと観たくて長らく待ちわびていた作品。
昭和35年、銀座近辺の新富町のひと夏が舞台。
長野から父をなくした親子が母の実家の八百屋に身をよせる。
母は近所の旅館で住み込み、小学生の息子秀男一人が預けられる。
東京が初めての秀男はなかなかなじめないが、
母の勤める旅館の娘順子と親しくなる。
海を見たことのない秀男、カブトムシなど昆虫はデパートで買うものと
思っている順子、接点のない二人だけど、
同じように父がいなくて(順子はお妾さんの娘で父と一緒には暮らしていない)
忙しい母ともふれ合えず、寂しさをかかえているのが同じなせいか気が合う。

この二人の交流を中心に描かれるのだけど、
秀男の母が男と駆け落ちしてしまったり、
順子の家事情(なんせお妾さんの家なので)など
ほろ苦いストーリーになっていて、
とても「ほのぼの夏休みの思い出」とはいいがたい。
どんなに二人が楽しそうに遊んでいるシーンでも
決して長続きはしないだろうという予感で
鼻の奥がツーンとしてくる。

50年前の銀座、新富町、東銀座の風景がすてきすぎる。
今現存するのはたぶん和光くらいで
当時の面影はあとかたもない。
モダンな外観の喫茶店、長い板塀の続く旅館、木造の商店、
築地川と柳のゆれる川べり。
そして今は高層マンションの林立する晴海、東雲あたり。
海の前は泥で埋め立てられた荒涼とした土地が広がるだけ。
野球すら満足にする土地のない都会で
「ここだったら野球が思いきりできるなあ」と感動する秀男に対し、
「いずれマンションやビルがたくさん建ってしまうのよ」と言う順子、
まさに50年後の今を予感したセリフ。
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by musasabi-sapana | 2010-08-19 15:01 | 映画・本・美術 | Comments(0)
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